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短期集中連載 
WEB小説「スーパー編集者 鈴木聡一郎君」第二話

文=丹律章

本原稿はフィクションです。実在のものと同一の、企業名、ブランド名、地名、人名などが登場しますが、実在のものとは直接何の関係もありません。


 翌日、午前6時。東京駅の八重洲中央口で、安田は聡一郎と待ち合わせしていた。ウェーダーなど川を歩く道具類と着替えは、あらかじめ先方に送ってあるので、ジーンズにスニーカー、ジャンパーという服装に、筆記用具やボイスレコーダーなどが入った、小さめのバッグだけの軽装だ。
 待ち合わせ場所に着くと、既に聡一郎は安田のことを待っていた。手には風呂敷包みを抱えている。約束の時間には少し早いが、先輩より先に来るのはいい心がけだ。
「編集長おはようございます」
「ああ、待ったか?」
「いえ」
 すると、聡一郎の背後から、黒い影がぬっと現れた。
「安田編集長でいらっしゃいますか。おはようございます」
 その影はそういった。痩身の男性だ。正確な年齢は不明だが、間違いなく70は過ぎているだろうと思われる。黒いスーツに、ネクタイをきっちり締めている。
「鈴木会長の秘書の、綾小路でございます。常日頃、聡一郎様がお世話になっております」
「あ、こ、これは……どうも……こちらこそ……お疲れ様です」
 安田はうろたえつつも、そう返答をした。

 この編集部に聡一郎が配属されたのは、1ヶ月前だ。
 釣りという趣味を持っているわけでも、知識が豊富なわけでもないのに、この雑誌の配属になったのにはいくつかの理由がある。
 ひとつは、聡一郎が友人とアメリカのモンタナ州を訪れた時、フライフィッシングで世界的に有名な川で腰まで水に浸かりながら釣りをする人を偶然見かけ、ああ、釣りって素敵だなあと思ったこと。
 次に、学生時代に岐阜に旅行に行った際、天然のアユの塩焼きを食べて、その味に感動したことが記憶に残っていたこと。
 そして、聡一郎の祖父が、旧財閥系企業グループの会長職にあり、この出版社はそのグループの傘下にあること。聡一郎の父が、この出版社の代表取締役を務めていること。そして、聡一郎が「僕はね、釣りの雑誌の仕事をしてみたいんだ」と父親に言ったこと。父親は「そうだな、では手配しよう」といったことなどだ。
 つまり聡一郎は、さほど深く考えもせず釣り雑誌の仕事をしてみたいといい、父がそれを実現させた、ということだ。言い方を変えれば、安田の組織を上にたどっていくと、会社のトップには聡一郎の父親がいて、それをさらに上へたどると、聡一郎の祖父にいきあたるということになる。ボスの子供、大ボスの孫を安田は預かっているのだ。
 将来的には祖父の後を父親が継ぎ、さらにはその長男である聡一郎が、この出版社を含めた企業グループ全てを継ぐものと思われている。扱いに関して上からの特別な指示はないので、今のところ安田は普通に接しているが、そんなある意味厄介な部下が聡一郎なのだ。

「鈴木会長の秘書の、綾小路でございます。常日頃、聡一郎様がお世話になっております」
会長の秘書。つまりは、自分自身が所属する企業グループの、会長の秘書ということだろう。一応別会社の所属だろうが、間違いなくグループ的には自分よりもずっとピラミッドの頂点に近い場所にいる人間だ。
「聡一郎様のことをよろしくお願いします。本日は、会社の人間としてではなく、聡一郎様の家族の代理としてご挨拶に参りました」
 綾小路と名乗った会長秘書は、また頭を下げた。
(家族の代理って言ったって、こっちは組織のことを考えるっつの)と安田は思いつつ、「は、はあ」とあいまいな返答をした。
「綾小路さんには来なくていいって言ったんですけどね。でも、荷物が多いからって、着いてきちゃったんですよ。じいちゃんにどういわれたか知らないけど、もう帰っていいよ、綾ジイ」
 聡一郎は安田の部下で、聡一郎が綾ジイと呼んでタメ口で指示を送る人は、安田よりもずっと上の立場。今回は家族の代理として来たので自分にも敬語を使っているが、本社で行われるグループ会議の席などで会ったならば、こちらが萎縮するような立場のはずだ。
 安田がじゃんけんのチョキなら、聡一郎がパーで、綾小路氏がグーということだろうか。パーってのはいいな。面積広いし。何でも包み込んでしまいそうだし。グーも質実剛健って気がして悪くない。綾小路さんにぴったりだ。その点、チョキはないよな。理論上パーには勝てるけど、3つの中では一番評価が低そうなのが、チョキだよな……。自分で設定した例えなのに、妄想は何故か卑屈な方向に向かった。

 

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※連載開始について