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短期集中連載 
WEB小説「スーパー編集者 鈴木聡一郎君」第三話

文=丹律章

本原稿はフィクションです。実在のものと同一の、企業名、ブランド名、地名、人名などが登場しますが、実在のものとは直接何の関係もありません。


「何ぶつぶつ言っているんですかー」
 聡一郎が安田の顔を覗き込んでいた。
「うわー、何だよ。びっくりさせるなよ」
「下向いてぶつぶつ言っていたので、編集長、どうしたのかなと思って」
「いや、どうもしないよ。行くか、聡一郎」
 安田は改札に向かおうとした。
「それでは坊っちゃん、行ってらっしゃいませ」
「うわ、綾ジイ、まだいたんですか」
「ええ。ちゃんと見送れと、申しつかっておりますので」
「分かったよ」
「綾小路さん、お疲れ様でした」
「あの……」
 綾小路が言った。
「荷物が……」
 綾小路の脇には、巨大なリモワのスーツケースが2つ並んでいた。
「聡一郎、これ、2つともお前のか?」
「そうですよ。ウェーダーとか、着替えとか、いろいろ準備していたら1つには入りきらなかったんですよ~」
「お前、海外旅行にでも行くつもりか? 1泊だぞ」
「でも、旅先では何があるか分からないし。夜の予定とか編集長に聞いていなかったので、急にパーティだって言われた時のために、一応タキシードとか……」
「タキシード? 夜? 夜は飯食ったら寝る! 次の日も早いんだ。そんなもんいらん。大体お前、釣りの取材をどういう風に思っているんだ!」
「そうなんですか。そうならそうと言って下さいよ。じゃあ、綾ジイ、こっちのスーツケース、もって帰ってくれる?」
「かしこまりました」
 聡一郎の荷物はやっと半分に減った。
「じゃあ、行くか」
 安田はそう言って、綾小路に頭を下げ、改札へ向かった。
「ところで、チケットは?」
「大丈夫です。ちゃんと買っておきました」
 前日、安田は夕方から打ち合わせが入っていたので、チケットの手配を聡一郎に任せていたのだった。
 聡一郎から目的地までの乗車券と特急券を受け取り、自動改札を抜ける。新幹線の改札では、2枚を同時に入れて通過の際に2枚受け取る。そしてエスカレーターでホームへ。で、何号車だ? 9号車か。
 ショルダーバッグひとつなので、安田は人ごみをすいすいと抜けていく。その後に、スーツケースをコロコロ押しながら、手には風呂敷包みを抱えた聡一郎が続く。
 目的の車両の前に着いた。
「聡一郎、これ、グリーン車じゃないか。会社の出張で、役員でもないのにグリーン車を買うバカがどこにいる!」
「えー、新幹線っていうと、グリーン車じゃないんですか?」
 聡一郎は本気で驚いている。
「あー、もう、払い戻している時間もないし……仕方ないか」
 怒られたのに、そんな意識がないのかどうか、聡一郎はニコニコ笑っている。
「なんか、修学旅行みたいで楽しいですね。グフフ」
「アホか。普通車との差額は、経理が認めてくれないから、多分自腹だぞ」
 そういってから、安田は気がついた。差額ぐらい、聡一郎にとっては痛くも痒くもないのだ。新幹線といえばグリーン車、飛行機といえばファーストクラス、車といえばメルセデスかロールスロイスというのが、こいつにとっては当たり前なのかもしれない。家族旅行なら、グリーン車1台借り切ったって不思議じゃない。仕方ないか。聡一郎を普通の社員と同じに考えた俺が馬鹿だったのだ。これから聡一郎にものを頼む時は、十分に気を付けなければならないが。
 荷物を棚に上げ、シートに座ると、さすがにすわり心地がよかった。普通車とは広さもクッションも違う。まあ、たまにはこんなのもいいか。俺も編集長だし。

 

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