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短期集中連載 
WEB小説「スーパー編集者 鈴木聡一郎君」第五話

文=丹律章

本原稿はフィクションです。実在のものと同一の、企業名、ブランド名、地名、人名などが登場しますが、実在のものとは直接何の関係もありません。


 午前11時。2人は秋田の渓流にいた。
 角館の駅前で、取材相手の佐々木文則さんというルアーフィッシングの名人の車に拾ってもらい、コンビニで昼食を調達した後、すぐに渓流に向かったのだった。
 ランクルのリアゲートを開けて、荷物の中からウェーダー類を取り出し、安田はさっそく川を歩く服装に着替える。聡一郎も真新しいウェーダーをスーツケースから引っ張り出している。
 あまり見たことがない色のウェーダーだった。しかも、柄が入っている。よく見ると、LとVのアルファベットが組み合わせられている。(どこかで見たような……)
「聡一郎、そのウェーダー、もしや……」
「ええヴィトンです。好きなブランドなので、作ってもらいました」
「バッグ屋がウェーダー作るのか」
「ええ。多少は無理を言いましたけど。ルイヴィトンのフランス本店の副社長に直接電話して説明して、銀座の直営店で採寸してもらいました。生地はアメリカのモンタナにあるシムスとかいうウェーダーメーカーから取り寄せたみたいですよ」
(シムスとルイヴィトンのコラボか。金持ちのやることは理解できん)
「おかげで、50万円も掛かっちゃいました」
(無理を言ってワンオフの製品を作らせるとは……褒められた言動ではないが、将来経営者になる人間としては、多少強引なところがあってもいいのかもしれない。それにしても、ウェーダー1着に50万、俺の月給とほぼ同じかよ。トホホ……)
 初めて履くウェーダーにてこずりながらも、何とか聡一郎が履き終えた。もちろん佐々木さんは既に自分の支度を終えている。安田も自分の準備を整え、周囲を見渡した。
 濃い緑だ。
 谷底を流れる渓流には透明な水が流れている。
 山が切り取った狭い空は青空。
 種類はわからないが、鳥の合唱が聞こえる。
 いい景色だ。この気分を味わいたくて、俺は渓流に来るのかもしれない。自分で釣りをする場合はもちろん、仕事だとしてもやはり渓流はいい。
 もう5月の半ばだが、東北の山あいは涼しい。安田は、薄手のフリースを羽織った。念のためにデイパックにはレインウェアも入れた。
「いやあ、暑いですね~。真夏ですよ、これじゃ」
 隣で安田の感想とは真逆の声がした。
「ウェーダーっていうのは、まるでサウナスーツですね」
 振り返ると、聡一郎の額には汗が浮かんでいる。
「秋田なら少しは涼しいと思ったんですけど、これなら家の方が涼しいや。そりゃあそうか、僕の部屋は、3月からエアコンガンガンですからね、ハハハハハ」
 そういって、聡一郎はタオルで額の汗をぬぐった。タオルにもLとVのアルファベットが重ねて刺繍してあった。
 聡一郎は太っている。体重は安田の倍近い。体感温度も高いだろう。ダウンジャケットを1枚余分に来ているようなものかもしれない。
「節電の昨今なのに、春先からエアコンなのか?」
「しょうがないじゃないですか。去年も、僕の部屋は18度設定でエアコンまわしっぱなしでしたよ」
「マスコミも節電節電って騒いでいるんだから、お前も少しは世間体とか考えたらどうだ?」
「世間体より、自分のことが第一です。可能ならこの川にも、18度設定のエアコンを設置したいところです」
「川にエアコンか。そりゃあお前の家の財力でも無理だろうな」
「昨日試算したら、土地を借り上げて、電気を引いて、その辺の木に10m間隔でエアコンを設置したとして、5キロくらいの区間なら、1億円あればおつりは来るはずなんです。つまり問題はお金じゃなくて土地なんですよ。ここ国有地なので、勝手に設置はできないじゃないですか。お役所に根回しするのって、おじいちゃんのコネを使っても1か月はかかるので、設置の時間も入れたら2か月はみたいところです。安田編集長、次の取材のときは2か月前に場所を教えてください」
 まじかこいつ。いや、こいつの財力、というか、孫に甘い祖父の力を考えたら、やりかねん。本当にそんなことをして、それが自然保護団体とかにばれたら、大問題になりかねんぞ。
「釣りの場所なんてな聡一郎、直前になるまで分からないもんなんだ。水の状況とか、雨の具合とかで直前に変更になることもザラだ。エアコンはあきらめろ」
「そうなんですか。残念だなあ」

 

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※連載開始について