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短期集中連載 
WEB小説「スーパー編集者 鈴木聡一郎君」第九話

文=丹律章

本原稿はフィクションです。実在のものと同一の、企業名、ブランド名、地名、人名などが登場しますが、実在のものとは直接何の関係もありません。


「別に、釣れなくてもいいんじゃないですかねえ」
「えっ?」
「だから、魚くらい釣れなくても、大丈夫ですって」
「魚くらいって……何を言っているんだ聡一郎! 俺たちは仕事で釣りの取材に来ているんだ。お前はまだ新米だからわからないかもしれないが、佐々木さんだって頑張ってくれているんじゃないか」
「頑張ってくれているのはありがたいことですけど、でも釣れないときは釣れないんでしょ。しょうがないじゃないですか」
「でも聡一郎君、こうやって君や安田さんがわざわざ東京から来てくれているわけだし、いい魚釣るのは俺の義務だと思うんだ」
「そうじゃないですよ。義務なんかじゃないですよ。来るのは編集長の勝手です。それに尺ヤマメが釣れなくたって、誰も困りませんって」
「俺は困るぞ」
「でも、それにしたって、クビになるわけでも、給料が減るわけでもないんですから。だいたい、大きなヤマメが釣れたって、雑誌の部数は倍になりますか? ならないでしょう。1匹も釣れなくても、部数は半分になりません。そうですよね編集長」
「ま、まあ、そうといえばそうだけどな」
「それに、今回は28センチまで釣れているんだから、問題なし。ノープロブレム!」
「聡一郎、そういうことじゃないんだよ……」
 その時、そびえたつ山の稜線から、太陽が姿を現した。深い谷の底にも、やっと陽の光が差し込んできたのだ。太陽光線が肩に当たり、急に暖かくなってくる。
「もしかしたら、そうかもな」
 佐々木さんが、太陽に目を細めながら、ゆっくりと話し始めた。
「安田さん。そうかもしれないよ」
「えっ?」
「俺は、毎回でかいヤマメを釣らなければいけないって思って釣りをしてきたんだ。せっかく安田さんが来てくれることだし。全力で頑張ろうと。でも、何となくプレッシャーに感じていた部分があるのかもしれない。去年の秋は35センチを釣ったし、その前は38センチ釣ったけど、あんなの毎回釣れるはずがないんだよ。釣りは釣れる時もあるけど、釣れないときだってある。釣れないことの方が多いのが普通なんだ。今、聡一郎君に言われて、なんか肩が軽くなったような気がする……別に釣れなくてもいいのか……そうだよな」
 太陽によって空気が暖められ、川を覆うもやも急速に姿を消していく。
「佐々木さん、聡一郎のいうこと真に受けなくても……」
「いやいや、もともと釣れないもんなんだよ、釣りなんてさ。そうだよね、聡一郎君」
「そうですよ、佐々木さん」
「君、いいこと言うねえ」
「でしょう。僕、いいこと言うでしょう」
「うん、いいこと言う。君は天才かもしれないぞ」
「あれ、今頃気づきました? 僕、天才なんですよ」
「ハハハハ」
「デヘヘヘ」
 佐々木と聡一郎はすっかり意気投合していた。安田はそれをあっけにとられて様子で眺めている。
 確かに、一理はある。魚くらい釣れなくても、誰も死なない。誰も血を流さない。大したことじゃない。すると俺は、今まで何にこだわってきたんだ?
 太陽はさらに高く上がり、水面を照らしている。太陽を反射した川面が、きらきら光ってきれいだ。
「佐々木さん、じゃあ釣りしましょうか」

 

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※連載開始について